経営者の方が支出を減らすために従業員を解雇することや雇止めすることはなぜ難しいか?
⑴ 経営者の方が支出を減らすために従業員を解雇や雇止めできるのか?
以前,経営者の方向けのファイナンシャルプランニングのお話をした際,まずは出費を少なくすることが大事だというお話をしました。
その際,
経営者の方の場合は出費を少なくしようと思っても,関連法規の制約を受けることがあり,必ずしも自由には行えない
というお話をし,その例として雇用関係について一言触れました(下記リンク参照)。
今回は,私のリスクマネージャーとしての立場から,従業員の雇用について多くの経営者の方が誤解している点を一般論としてお話ししたいと思います。
もちろん,従業員の雇用関係についての法的問題の判断は,裁判になると似ているケースでも全く正反対の判断が出るくらいであって,専門家である弁護士にとっても難しい分野です。
ですので,今回のお話の主眼は,現在起きている法的な紛争の解決に役立てるというよりは,
従業員の雇用関係を整理して支出を減らすという手段を採ることは非常に難しいので,それ以外の方法をまず考えていただきたい
ということを分かっていただきたいという点にあります。
⑵ 経営者の方が支出を減らすためにアルバイトやパートを解雇したり雇止めできるのか?
従業員と一口に言っても,大きく分けて,
- フルタイムの契約期間を定めない労働者(いわゆる正社員)
- フルタイムの労働者よりも短時間で期間を定めた労働者(いわゆるアルバイト,パート)
の2つに分けられます(派遣社員は直接の雇用関係にないので今回は除きますが,アルバイト,パートと同様の問題が生じることはあります)。
多くの経営者の方も,正社員については解雇が難しいということは何となくご理解されていると思います(労働契約法第16条)。
これに対し,
アルバイトやパートについてはそもそも契約期間が終われば雇い続ける必要はないし,契約期間内であっても正社員と違って簡単に解雇できる
と勘違いされている経営者の方も少なからずみられますが,これは一般的には誤りです(なお,アルバイトとパートは通常の意味やイメージは異なりますが,法的には両者に違いはありません)。
すなわち,
アルバイト,パートであっても契約期間内は当然には解雇できない
のはもちろんのこと,
一定の場合は契約期間の終了後であっても雇用を継続する必要がある(労働契約法第19条,雇止め法理)
のです(ここでいう解雇とは経営側から一方的に契約を終了させることであり,労働者側からの退職や任意の退職勧奨とは異なります)。
では,契約終了後であっても雇用を継続する必要があるのはどのような場合かということですが,これについては,先ほど述べたとおり,個々のケースのわずかな事情の違いによって結論が異なってくるので,一概には言えません。
ただ,一般的に,
- そのアルバイト,パートが正社員に近い労働実態であり,雇止めが解雇と同視できるような結果になる場合
- 経営が極めて厳しい状況になった場合
等が判断要素として挙げられます。
ただ,実際に契約終了が認められるかどうかについては,先ほど述べたとおり事案によって異なりますので,現在このようなことでお悩みの方は専門家に直接ご相談されることをお勧めいたします。
⑶ 今回のまとめ
今回は,経営者の方の経費節減が難しいことの具体的な例として,経営者の方が誤解されていることの多いアルバイト,パートの契約終了についてお話ししました。
経営者の方も,雇用関係に手を付けようと考える時点でかなり切羽詰まっており,本心では従業員に辞めてもらいたくはないと考えていることがほとんどです。
そのような事態になる前に,少しずつ収支を改善できるよう,特に支出の改善を進めていきましょう。